文部省通信 vol.3

いじめ

家庭が、学校が、地域社会が、「いじめの問題」で問われています!

いじめの問題は、家庭、学校、地域社会がそれぞれの教育機能を十分に発揮し、一体となった取組を行っていけば、必ず改善が図れるものです。21世紀の日本、そして世界を担う子どもたちの健やかな成長を社会全体で支援していくために、今こそ私たち一人一人が行動するとき。それには、いじめの問題に対する基本的な認識をしっかりと持っておくことから始めましょう。

いじめの問題に関する基本的認識

弱い者をいじめることは人間として絶対に許されない
どのような社会にあっても、「いじめは許されない」「いじめる側が悪い」という明快な一事を毅然とした態度で行き渡らせることが必要です。「いじめは子供の成長にとって必要な場合もある」などという考えは認められません。また、いじめをはやし立てたり、傍観する行為も、いじめる行為と同様に許されません。子どもに「いじめを大人に伝えることは正しい行為である」という認識を持たせることも必要です。

いじめられている子どもの立場で、親身の指導を
子どもの悩みを親身になって受け止め、子どもの発する危険信号をあらゆる機会をとらえて鋭敏に察知するよう努めることが大切です。自分のクラスや学校にも深刻ないじめ事件が発生し得るという危機意識を常に持つこと。また、いじめの件数が少ないことのみをもって問題なしとすることは、早計です。いじめの多寡以上に大切なことは、いじめにいかに迅速かつ適切に対応し、いじめの悪化を防止し、早期に真の解決を図るかということです。

家庭教育のあり方が、いじめに大きく関わっている
いじめの問題の解決のためには、家庭がきわめて重要な役割を担っています。いじめの問題の基本的な考え方は、まず家庭が責任をもって徹底すること。家庭の深い愛情や精神的な支え、信頼に基づく厳しさ、親子の会話やふれあいの確保などが、いじめ問題の解決につながります。

教師の児童生徒観や指導のあり方が問われている
社会の過度の同質志向を排し、個性や差異を尊重する態度や、その基礎となる新しい価値観を育てる指導を徹底させること。また、道徳教育や心の教育を通じてお互いを思いやり尊重し、生命や人権を大切にする態度を育てることが必要です。特に、かけがえのない生命、生きることの素晴らしさや喜びなどについての指導を行うことが大切です。

家庭、学校、地域社会などすべての関係者が努力を
いじめは、人権に関わる重大な問題であり、将来にわたって子どもの内面を深く傷つけるものです。いじめの解決に向けて、関係者のすべてがそれぞれの立場からその責務を果たすこと。その上で一体となって、真剣に取り組むことが急務です。

いじめの背景

いじめの背景についてはさまざまな議論があり、現時点で特定することはなお難しいことですが、アンケート調査の結果等をふまえると、家庭、学校、社会における要因が、複雑に絡み合っていると考えられます。

家庭での基本的なしつけの不足
思いやりや正義感、善悪の判断についてのしつけが不徹底。また、「弱い者をいじめることは人間として絶対に許されない」との基本的な考え方が十分に徹底されていません。家庭は、子どもにとって真に安らげる「心の居場所」であるべきです。

個性を生かす教育の不徹底
一人一人の個性、特性を伸ばす教育が十分に行われていません。また、学校内に信頼、思いやりや正義感、いじめは卑劣な行為であることの認識などを行き渡らせる指導が徹底されていません。さらに、教師の間にいじめに関する基本的認識が十分徹底されておらず、「いじめの背景として学校教育にも問題がある」との受けとめも不十分です。

様々な体験活動の不足
住民の連帯意識の希薄化などによって、地域の教育力が低下しています。都市化の進展等による子どもの遊びの変化、生活体験の不足などが挙げられます。

社会全体の認識の不足
社会全体に「いじめは絶対に許されない」という意識が不十分。異質なものを排除するという社会の同質志向の意識にも問題があります。

 

まず、学校から。いじいめ問題の解決につながる姿勢と取組。

学校は子どもにとって、楽しく学び生き生きと活動できる場でなければなりません。子どもたち一人一人が大切にされ、子どもたちが自分の存在感や自己実現の喜びを実感できるような学校でなければならず、学校はいじめの問題の解決について大きな責任があります。それには「子どもの立場に立った学校運営」と「開かれた学校」を基本姿勢として、さまざまな取組を行っていく必要があります。

学校運営改善の基本姿勢

子どもの立場に立って
いじめの問題は国公私立を通じどの学校にとっても共通の課題です。学校運営のあり方を子どもの立場に立って見直し、改善すべきことは思い切って改善していくこと。きめ細やかで『個に応じた生徒指導』の観点からの見直しも必要です。

学校を開こう
いじめは学校だけでは解決のできない問題です。いじめに関するさまざまな情報を提供するなど、保護者や関係機関等と日頃から手を携えて、開かれた学校づくりをしていくことが必要です。「開かれた学校」を進めるためには、まず、学級や学年の風通しをよくする取組、すなわち『内なる開かれた学校』の実現が大切です。

このような基本的な姿勢をふまえつつ、次の6つのポイントで具体的に取り組んでいくことが必要です。

ポイント1
実効性のある指導体制の確立

学校を挙げた対応
校長のリーダシップの下にすべての教職員が日頃から児童生徒の学校生活の状況をきめ細かく把握し、緊密な情報交換による共通理解に立ち、連携協力して対応することが肝要。その際、それぞれの教職員の役割分担や責任の明確化を図ることが必要です。

実践的な校内研修
全教職員の共通理解と指導力の向上を図るため、事例研究やカウンセリング演習など実践的な内容を持った校内研修を積極的に実施することが必要です。

養護教諭や保健主事も一体となって
「心の居場所」としての役割を果たしている養護教諭を保健主事に任用するなど、その活躍に期待。また、保健主事は学校保健委員会を通じて学校医等との連携協力を図るなど、その役割を十分に果たすことが求められています。

関係機間等との連携の強化
カウンセリング等に関し専門的な知識・経験を有する者や関係機関等との積極的な連携協力を行うことが必要。また、特に深刻ないじめ事件については警察との連携協力も必要であり、教師間や保護者との共通理解が大切です。

ポイント2
事実関係の究明等

事実関係の正確な把握
いじめの問題の解決のためには、事実関係の正確な究明が急務。児童生徒のプライバシーなどにも十分配慮しつつ、友人関係等からの情報収集等を通じ、事実関係の把握を迅速 かつ正確に行うことが必要です。

いじめられている子どもを守り通す
全教職員がいじめられている児童生徒を必ず守り通すという毅然とした態度を示すとともに、休み時間の校内巡回など、実態把握に様々な工夫をすることが必要です。

保護者とのきめ細かな連携
保護者からの訴えを受けた場合には、まず謙虚に耳を傾けることが必要。その上で、家庭やPTAの協力を求め、関係者全員で取り組む姿勢が大切です。

ポイント3
いじめる児童生徒に対する適切な教育的指導

いじめる児童生徒への指導
いじめを行う児童生徒には、その心理を十分に理解しつつ一定の教育的配慮をもって根気よく継続して指導することが大切。保護者の協力を求めて、必要な場合には、校内での特別な指導も有効。しかし一定の限度を超える場合には、いじめられている児童生徒を守るために、出席停止や警察等との協力による厳しい対応策をとることも必要です。

分かりやすい授業と存在感が感じられる学校
すべての児童生徒が自ら参加できる、分かりやすい授業、各自がそれぞれの役割を持ち、存在感が感じられる学校が求められています。なかでも学級経営は重要であり、学級担任の役割と責任は大きい。

ポイント4
いじめられる児童生徒への弾力的な対応

緊急避難としての欠席
いじめを受けている児童生徒には、その後の学習に支障を生じないよう十分な措置を講じつつ、緊急避難としての欠席が弾力的に認められてよい。

学級替え等を弾力的に
いじめられている児童生徒又はいじめている児童生徒のグループ替えや席替えのほか、学級替えを行うことも必要です。また、必要に応じて子どもの立場に立った弾力的な学級編制替えも工夫されてよいでしょう。

「転校」措置の弾力的運用の徹底
いじめられている児童生徒の立場に立って、「転校」措置の扱いについて、これまで以上に柔軟に対応していくことが必要です。

卒業するまでの継続指導
当該児童生徒が卒業するまで、継続して十分な注意を払うなど、いじめが完全になくなるまで注意深く継続して徹底的に指導する必要があります。

ポイント5
積極的な生徒指導等

学校教育活動全体を通じた指導
すべての児童生徒の人格のよりよき発達をめざす生徒指導の機能を、学校生活のすべての場で十分作用させていくことが必要です。

集団活動等の推進と子ども自身の取組の支援
学級(ホームルーム)活動や児童(生徒)会活動など、自主性・主体性を育む活動を通じて、いじめについて考えさせることは意義が大きい。また、ボランティア体験や自然体験など、人間関係や生活体験を豊かなものとする教育活動を取り入れることも重要です。

日頃から信頼関係を培う
教師が児童生徒の悩みを受け止めるためには、何よりもまず全人格的な接し方を心がけ、日頃から児童生徒との心のチャンネルを形成するなど深い信頼関係を築くことが不可欠。あわせて正義感や思いやりの心をクラス内に行き渡らせるように指導を徹底しましょう。

児童生徒や保護者とふれあう時間の確保
会議や行事の見直し等、校務運営の効率化を図りつつ、何よりも児童生徒や保護者とふれあう機会の確保と充実に努めましょう。給食、遊び、清掃活動などを通じて児童生徒とふれあうことが大切です。

部活動を通じた指導と配慮
適切な部活動は、いじめの問題に対する有効な方策となり得ます。部活動指導においては人間関係や個性に配慮するとともに、教師が部活動指導の多忙が理由で他の児童生徒とのふれあいを不足させることのないよう、学校全体として十分に配慮する必要があります。

子どもの仲間意識の変化にも留意
仲間意識や友人関係が変化してきており、信頼関係の希簿化又は欠如がうかがわれます。こうした変化に注意しつつ、いじめの発見や適切な対応、学級経営や指導方法の見直し等に努めましょう。

相談しやすい体制づくり
教育相談室を生徒指導室とは別の場所に設けたり、相談しやすい雰囲気にするよう創意工夫するなど、児童生徒にとって相談しやすい体制を整えることも大切です。

ポイント6
家庭・地域社会との連携協力

保護者への十分な情報提供
いじめの問題は、学校のみで解決することに固執することなく、家庭や地域社会と共同して解決を図る姿勢が重要です。日頃からいじめに関する情報を十分に提供することが必要です。

PTA等との連携協力
いじめの問題に関し学校と保護者や地域の代表者との意見交換の機会を設けるほか、特にPTAと学校との実質的な連絡協議の場を確保して、積極的な連携を図ることが必要です。

懇談会等の持ち方の工夫
休日や学校外などのPTA懇談会や保護者面談の開催など、開催時間や開催場所を見直して多くの保護者が参加しやすいように工夫しましょう。

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